アニメノギス

理屈っぽいアニメレビュー

『TARI TARI』の感想:★★★☆(3.5)

 

夏 × 合唱 × 青春。清涼感が秀逸な学園ドラマ。 

 

今回は2012年放送の『TARI TARI』(P. A. WORKS制作)を紹介する。これまで紹介してきた作品はいずれも高評価だったが、この作品については若干辛口なレビューになると思う。誤解なきよう先に伝えておくが、『TARI TARI』は決してつまらないわけではない。感動できる回もあるし、ギャグのテンポも悪くない。全13話でサクッと観られるのも美点だ。ただ、個人的にどうしても引っかかる部分があったのでこの評価になってしまった。何度も繰り返すが他の多くのアニメと比較して出来が悪いというわけではない(くどい)。

 

 

あらすじ (公式HPより引用)

ある日を境に音楽から離れた坂井和奏(わかな)。

歌うことを諦めきれない宮本来夏(こなつ)。

親友のために力を貸す沖田紗羽(さわ)。

笑ったり喧嘩したり悩んだり恋をしたり・・・。

ありふれた日常を送りつつ、少しずつ少しずつ前に進む少女達。

時には回り道をしながら、ひとりでは無理かもしれないけど

親友がいればきっとーー。

和奏、来夏、紗羽そして彼女達の奏でるアンサンブルが、音楽の力が

小さくも煌びやかな物語を紡ぎ出す。

高校生活最後の夏。それは夢を諦めるには早すぎる季節。

江の島に響く歌声が今日も僕らを勇気付ける。

実際には和奏、来夏、紗羽の3人に田中、ウィーンという男子2人を加えた計5名で合唱活動をやっていく。(男子2人も女子3人と等しいポジション。にも関わらずあらすじにもキービジュアルにもいない。この扱いの差は何なのだろう...。)5人にはそれぞれやりたいことや夢があって、それを追いかける彼女たちの成長と仲間の友情が描かれる。合唱シーンはいかにも青春っぽく、夏の湘南という舞台も相まって非常に爽やかな印象を与えている。

 

感想

TARI TARI』は「夢を追いかけること」と「仲間と歌う喜び」にスポットを当てた青春アニメ、ということになる。実際、ネットに転がっているレビューをいくつか見ても、この「青春感」と「爽やかさ」を評価する声が多かった。

 

ここからは僕の主観になるが、僕がこの作品を観終えたときの感想は「軽い」だった。観ている間は普通に面白かったし、特に音楽を避けていた和奏が色んな葛藤を経て再び合唱を始めるところはすごく感動できたので途中で切ろうとは思わなかったのだが、全体として見るとなんか軽い。

 

なぜか。キャラクターの掘り下げが微妙だからだ。いや、キャラによって掘り下げの度合いに差があるといった方が正しい。

 

上で書いた通り、和奏のストーリーは感動できる。第1話から地道に伏線が張られているし、彼女が音楽から離れた理由である母の死についても丁寧に描かれている。和奏を立ち直らせた父のファインプレーも無理がなく、強引に感動させに来ている感じがなかった。和奏の話以外では、紗羽が自身の体格のために騎手という夢を断念するストーリーも光っている。「騎手になりたい」という紗羽の強い想いを丁寧に掘り下げているだけに、夢を諦めらめなくてはならない絶望感が真に迫っている。

 

物足りないのは残りの3人、来夏、田中、ウィーンの掘り下げだ。田中は部活のバドミントン、ウィーンは故郷にいる親友に関してそれぞれ1、2話完結のストーリーが用意されているのだが、とにかく内容が薄い。つまらないわけではないのだが、サイドストーリー感が強い。百歩譲って「男子2人の重要度が女子3人よりも低い」ということだとしても、来夏のストーリーは明らかに和奏と紗羽のものと比べて雑だ。これがこの作品の最大の問題である。

 

そもそもこの5人が合唱部を始めたきっかけは来夏にある。来夏はもともと「声楽部」という部活に在籍していたのだが、2年のコンクールで緊張しすぎて大失態を犯して以降、合唱に参加させてもらえずにいた(端的に言えば干されていた)。どうしても歌いたくて仕方なかった来夏は声楽部を退部し、周囲を巻き込んで「合唱部」を新たに立ち上げる。来夏以外の4人は頼まれたから仕方なく合唱部に入ったに過ぎず、もともと合唱をやりたかったのは来夏だけなのだ。本作の主人公は和奏とされているが、実際には和奏・来夏のダブル主人公と言って差し支えない。来夏はそれだけ重要なポジションにいる。

 

最初の3話あたりまでは来夏を中心にストーリーが進んでいく。「合唱をやりたい」という熱意も伝わってきたし、2年のときの悔しさをバネに頑張る様子がしっかりと描かれている。僕ははじめ、「この作品は来夏の成長物語なんだろうな」と思った。第3話で初めて来夏が歌ったときは、正直グッときた。が、4話以降そんな熱量は一気に消え失せ、主人公としての存在感は影をひそめる。「あんなに合唱にかけてたのに、あのがむしゃらさはどこに行ったの??」と不思議に感じた。そのまま来夏のことはほったらかしで、和奏にスポットライトが移っていく。最後の最後、文化祭がなくなるかもしれないという事態では来夏も頑張りを見せるが、もはや和奏の援護射撃くらいにしか感じられない。行動の一つ一つについても理由がふわふわしていて段々共感できなくなってくる。

 

物語の主軸を担っているはずの来夏がおざなりになっているのが個人的にすごく残念に感じた。和奏や紗羽はキャラが立っていてバックグラウンドの掘り下げもしっかりしているだけに、余計目立つ。

 

以前のレビューから度々強調しているが、登場人物の性格や行動には視聴者が納得できるだけの理由(背景)が必要だ。そうでないと視聴者はキャラクターに感情移入できない。さらにはキャラクターの言動や行動に違和感を覚えてくる。何か作品を読んでいて、登場人物に対して「そんなこと言うキャラだっけ?」と感じたことは誰だって一度くらいあるだろう。

 

TARI TARI』が描きたかったもの

ここまで僕の『TARI TARI』への不満点を書き連ねてきた。しかし書いているうちに、僕が求めていたものと『TARI TARI』が描きたかったものがそもそも一致していなかっただけなのだと気付いた。

 

僕が『TARI TARI』に求めていたのは部活っぽさだった。先に説明したように、序盤、来夏は自らの失敗から声楽部で干され、そのことに悔しさを覚えていた。僕はこの第一話を観て、ゆくゆくは来夏が一皮むけて部活のみんなをあっと言わせるのだろうと期待した。『響け!ユーフォニアム』のようにひたすらに練習に打ち込み、最終的になんとか壁を乗り越えるのだろうとわくわくした。

 

しかし、僕が求めていたものは『TARI TARI』が伝えたかったものとは全く違ったのだ。『TARI TARI』というタイトルは、「~したり、~したり」から来ている。「笑ったり、喧嘩したり、遊んだり、晴れたり、雨が降ったり、泣いたり、時々歌ったり」することこそ、『TARI TARI』の本質なのだ。事実、5人の中で合唱に一番重きを置いているのは和奏だけだ。みんなそれぞれやりたいことが別にあって、それと合唱の両方に打ち込んでいる。合唱部として活動する際も、フォーマルな合唱はほとんどやっていない。海の家のイベントや町おこしのためのパフォーマンス、文化祭の音楽劇など、その形態は様々だ。要するに『TARI TARI』の伝えたかったメッセージは、「仲間と色んなこと楽しもうぜ!」ということなのだろう。「合唱一本」なんて『TARI TARI』はそもそも推奨していないのだ。

 

合わないものは仕方ない

そう考えると、来夏の動かし方はあれで正しかったのだろうと思えてくる。来夏が合唱一筋だったら『TARI TARI』が『TARI TARI』でなくなってしまうのだから。

 

ただ、来夏の動きが本作のテーマに即していたとしても、それは話を作る側の人間の都合に過ぎない。この作品が伝えたかったことは全13話でしっかり表現できているとは思うが、登場人物の動かし方や内面の掘り下げ方はもうちょっとうまいやり方があったのではないかと思う。

 

この前レビューした『宇宙よりも遠い場所(よりもい)』 と比較してみると分かりやすいかもしれない。この作品では、主役の4人がそれぞれ異なる悩みや問題を抱えており、4人が互いに支え合うことでそれを乗り越えていく姿が描かれる。この点は『TARI TARI』と共通している。しかし、『よりもい』では4人のそれぞれのストーリーが10話近くかけてじっくりと同時並行で進行していくので、『TARI TARI』のように「第4~6話が和奏のパート、第7~8話が紗羽のパート」みたいなブツ切れ感が一切ない。また、4人のバックグラウンドが話数をかけてじっくり掘り下げられているので、自然に彼女たちに感情移入できる。そして、『よりもい』の最大の強みは、4人のストーリーが相乗効果を生み出しているという点だ。うまい表現が見つからないのだが、なんというか、各回の感動が積み重なり、倍々になって増幅しているような印象を受ける。それでいて、各キャラクターのストーリーが『よりもい』という作品の着地点に向かって収束しているような一体感がある。これに対し、TARI TARI』は5人のシナリオが離散的で、それぞれ独立しているような印象が強い。抽象的な表現になるが、『よりもい』のシナリオが「掛け算」とするならば、『TARI TARI』はシナリオは「足し算」だ(伝われ)。

 

同じくP. A. WORKS制作の『花咲くいろは』や『SHIROBAKO』と比較してもやはり差を感じる。差というのは主に脚本の部分だ。上の2作品と比べると本作はどうしてもキャラクターに愛着が湧きにくい。また、これはP. A.作品に共通することだが、とにかく「クセ」が強い。最初の2話くらいまでの視聴者置いてけぼり感がすさまじい。

 

まとめ&小言

不満ばかり書いてしまったが、良い所もたくさんあるし決して面白くないわけではない。面白くなかったら最後まで観ていない。まず、合唱のシーンはすごく良い。曲が良くて声優さんの歌唱力も非常に高いので、アニメとか関係なく純粋に音楽として楽しめる。次に、繰り返しになるが、和奏と紗羽のエピソードは出来が良い。誰が観てもグッとくるものがあると思う。あとは単純に紗羽がかわいい。また、地味に重要なことだが主役5人にいやなやつがいないのでストレスなく観ていられる。

 

ネットの評判も悪くないし比較的信憑性の高いAmazon Primeでも★4.5だったので、良い作品なのだと思う。ただ『TARI TARI』は僕の好みとは少し違った。それだけだ。

 

個人的な好みを勘定に入れなければ★4.0くらいはあると思う。「明るくて楽しくて夏が感じられるアニメが観たい」という人におすすめしたい。

 

次回は現在公開中のアニメを紹介する予定。