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理屈っぽいアニメレビュー

『ACCA13区監察課』のレビュー:★★★★(4.0)

 

先の読めない展開に洒脱なセンスが光るポリティカルミステリー

 

今回紹介するのはマッドハウス制作の2017年冬アニメ『ACCA13区監察課』。最近見たアニメの中では『ARIA』に次いで琴線に触れた。決して有名ではないが、「隠れた名作」「もっと評価されるべき」タグをつけたくなる作品。そんな本作をネタバレなしでサクッとレビューしていく。

 

 

あらすじ

13の自治区に分かれた王国にある、巨大統一組織“ACCA(アッカ)”。

かつてのクーデターの危機により結成されたACCAは、

国民の平和を守り続け100年が経とうとしていた。

ACCA本部の監察課副課長 ジーン・オータスは、

「もらいタバコのジーン」の異名をもつ、組織きっての食えない男。

飄々と煙草を燻らせながら、13区を廻り不正がないか視察を行っている。

そんなジーンを見つめる視線、不穏な噂と――おやつの時間。

ジーンの平和な日常は、ゆっくりと世界の陰謀に巻き込まれていく!

(アニメ公式HP)

 

大国を横断的に管轄する行政機関「ACCA」の中で、各課の業務を監視する役割を担う「監察課」。その副課長である主人公 ジーン・オータスが何やらよく分からないうちに組織の陰謀と権力者たちの思惑に巻き込まれていくというのが、ストーリーの大筋。

 

ちなみに本記事の見出しに書いてある「ポリティカル(政治)ミステリー」は完全に筆者の造語。というのもこの作品、ジャンルを一言で表すのが非常に難しい。謎と伏線が多く推理ものの側面が強い一方で、いわゆるミステリー小説(推理小説)のように人が死んだりするような事件はなくサスペンスのような重苦しさはない。かといって決してコメディに寄ってはおらず確かなシリアスさを有しているという、何とも表現に困る作品なのだ。Wikipediaでは群像劇とラベリングされているが、群像劇と言えるほど三人称視点が保たれているわけでもないので、これも芯を食っていない。そこで苦し紛れに「ポリティカルミステリー」というワードを捻り出したというわけである。

 

このように一風変わった作風だが、『ACCA』はただ奇をてらった作品ではなく、視聴者を惹きつけるだけの上質な中身を有している。その魅力は大きく、

 

① 「現在地」を明らかにしないシナリオ構成

② どこをとっても「オシャレ」なトータルデザイン

 

の二つに分解できる。

 

 

ACCA13区監察課』の魅力

「現在地」を明らかにしないシナリオ構成

ミステリーにおいて何より重要なのはやはりシナリオ。その必要条件は、

 

① 視聴者に謎を提示すること

② 謎に関連する伏線(ヒント)が散りばめられていること

③ 最後に謎を開示することで視聴者に驚きを与えること

 

の3つと言える。例えば一般的な推理小説では、殺人事件などが起きるところから始まり、その犯人やトリックが読者に明かされないまま物語が展開し、作品の最後で真相が明らかになる。『ACCA』も上に挙げた①~③の特性を有しており、そういう意味では推理ものとしての側面を有しているのだが、本作は通常のミステリーとは決定的に異なる点がある。それは、

 

④ そもそも何が起こっているのかさえ、終盤に至るまでほとんど明かされない

 

という点である。先ほど本作のストーリーについて「主人公 ジーン・オータスが何やらよく分からないうちに組織の陰謀と権力者たちの思惑に巻き込まれていく」という説明をしたが、この「何やらよく分からないうちに」というのが上の④の状況を指している。巨大組織ACCAとそれが統治する各区の間で何かが起きつつあり、ジーンはその事件の中心にいる。それなのにジーン当人は自分が何に巻き込まれているのか、どういう行動をとれば良いのか、そもそもなぜ巻き込まれているのか、という根本的な問題を全く把握できていない。そして視聴者はそのジーンと同じ視点に立たされ、五里霧中の状態で物語が進行していく。

 

渦中にいるのに事態が把握できていないこちら側(主人公+視聴者)と、事態を俯瞰した上でそれぞれの思惑から主人公に働きかける向こう側(主人公以外の登場人物)という対立構造の、何とも言えない気持ち悪さ・違和感。そして事件の全容が本当にゆっくり、うっすら浮かび上がってくるもどかしさとそれに伴う好奇心。これこそが、『ACCA』のシナリオ的な魅力である。

 

序盤・中盤は水面下で何かが蠢くように進行し、終盤で一気にその「何か」が姿を見せる、そんなシナリオとなっている(余談だが、『ACCA』の序盤の言いようのない気持ち悪さみたいなものは、『STEINS;GATE』のそれに通ずるものがあるように思う)。特に終盤にかけては序盤に散りばめられていた伏線が次々と繋がっていくミステリーの醍醐味ともいえる感覚が味わえる。全体として、先が読めなくて続きが気になる、実に巧いシリーズ構成に感じる。

 

 

どこをとっても「オシャレ」なデザイン

ここまで述べてきたように、『ACCA』は推理ものとしてのロジカルな構築美や謎に囲まれる面白さを有している。だがしかし、本作の最大の特徴――言うなれば『ACCA』を『ACCA』たらしめる主要因はシナリオそれ自体ではなく、複雑に入り組んだ展開に反して作品全体の印象は驚くほど軽やかであるという「ギャップ」にこそある。

 

では、ロジカルで複雑なのに「軽やか」に感じられるのはなぜかという点についてだが、その理由は至ってシンプル。この作品、何から何までとにかく「オシャレ」なのだ。

 

キャラクター

深夜アニメのうちおよそ8~9割の作品はより男性にウケるようなキャラクターデザインがなされている。もちろん男性向け女性向けを完全に区別することはできないし、女性ファンが多い作品にも男性ファンは一定数いる。だが実際、やはり女性が好ましく感じるであろうキャラデザはあるし、そこには一般的な男性のアニオタをターゲットとした作品のそれとは明確な差異が存在する。

 

ここで『ACCA』に目を向けると、そのキャラデザは明らかに女性から見て好ましく感じるような、ハンサムでスタイリッシュな造形に仕上がっている。しかし同時に、この作品のキャラデザの素晴らしいところだが、男の筆者から見ても本作の男性キャラはカッコ良くて色っぽくてファンになってしまうような魅力を備えている。

 

その要因は、キャラデザがとにかく「オシャレ」でなおかつ中庸なバランスを保っているという点。女性受けに必要なエッセンスは有してはいるが、他方で女性向けの作品にありがちな、男としてはうざったく感じるような過剰なキャラ付け(不自然な男らしさ等)みたいなものがない。シックでアンニュイな色気といった感じで、とにかく上質な造形をしている。特にジーンとニーノはとにかくカッコいい。男女問わずファンが多いのも納得できる。

 

また、本作は男性キャラがメインとなっているが、女性キャラも負けず劣らず魅力的。一般的なアニオタ向けの所謂萌え路線とは真逆のアプローチで、「媚び」がない。ナチュラルな「美しさ」「可憐さ」は女性から見ても男性から見ても魅力的で、なおかつこの作品の「オシャレ」な空気感にも寄与している。

 

もし本作のキャラデザが『BLACK LAGOON』のように武骨だったり、あるいは『刻刻』のように現実的なものだったら、作品全体が与える印象はもっと暗くて地味なものになっていただろう。というのも、『ACCA』のシナリオ展開はあくまで静かで派手さがほとんどないからだ。この面白くはあるが一見パッとしないシナリオをうまくカバーし、かつ世界観に見事に調和しているという点でも、本作のキャラデザは極めて優れていると言える。

 

 

オープニング

音楽も特筆すべきオシャレさ。特にOPは僕の中でオシャレOPランキングTOP3に入るレベルで気に入っている(あとの二つは『キャロル&チューズデイ』『宝石の国』)。

 

まず曲についてだが、音楽用語に疎い僕には表現の難しい不思議なサウンドだったので、代わりに野村ケンジ氏によるサウンドインプレッションを引用させてもらうことにする。

 

とても面白い、とにかく面白い。TVアニメ『ACCA13区監察課』のオープニングテーマ「Shadow and Truth」を一聴して感じたのは、作り上げられた楽曲の“楽しさ”と“新しさ”だ。冒頭はジャズ(ビッグバンド風!?)アレンジから始まり、それにFoggy-Dのラップが被さり、さらにPONならではの美しくも個性的なヴォーカル&コーラスが重なることで、オールドスタイルのようでいて、最新ポップスのようでいて、これまでにはない新しいサウンドを作り上げている。

何よりも、グルーブ感の高さが素晴らしい。バンド演奏、ラップ、ヴォーカルという音数の多い構成が一体になり、大きなうねりのようなリズムを生み出している。

音楽配信サイト「mora」より引用)

 

とまあ、既存の枠組みにとらわれない「新しさ」と音楽的な「楽しさ」を両立した楽曲となっている。一言で言えば「オシャレ」(しつこい)。

 

で、このオシャレな楽曲に合わさる映像がまたとにかくオシャレ。本当にセンスの塊。ここでも前述のスタイリッシュなキャラデザが活きており、楽曲との親和性の高さも相まって作品により洗練された印象を与えている。

 

また、このポップでユニークなOPは大人しい『ACCA』における数少ない「はっちゃけどころ」でもある。なので、本作の「軽やかさ」に対するOPの寄与はかなり大きいと言える。

 

 

食べ物

ところで、かの新海誠監督が『言の葉の庭』における「雨」に関して、「3人目のキャラクターと言って差し支えないくらい重要なウェイトがある」と語ったことがあるのをご存じだろうか。やや大げさかもしれないが、『ACCA』における「食べ物」(特にパン)もそれに近い重要性を有していると筆者は考えている。『言の葉の庭』は繊細な雨の描写によって、美しい寂寥感の漂う世界を見事に創り出していた。それと同じように、『ACCA』においては「映える」料理の数々がオシャレな空間の醸成に強く貢献しているのだ。

 

グルメものでもないのにここまで食べ物の存在感が強い作品は中々珍しい。見た目に華があるだけでなく、実に美味そうだ。そして、オシャレなキャラ達がこういった料理を口にするシーンはそれだけで絵になる。空間そのものまでオシャレに感じられる。本作における食べ物のウェイトの重さはスタッフ側も公認しているようで、公式HPやPVでも色んな料理やお菓子がフィーチャーされている。

 

『ACCA』において、食べ物はいわば影のMVP。キャラクターがお洒落なら食事もオシャレな方が良い。そのシンプルな要求を、本作は十二分のクオリティで満たしている。

 

 

背景美術

最後のオシャレポイントは背景美術。当ブログでは度々背景美術について言及しているので「お前ほんと背景好きだな」と思われてそうだが(否定はできない)、個人的な好みを差し引いても背景美術は作品のクオリティを大きく左右する重要な要素であるのは確かだ。

 

色使い、光の陰影の描写、街並みの美しさなど、全体として洗練された印象を与えるその背景はシックな世界観の屋台骨として機能している。また、絵画的な柔らかさはシナリオ面の閉塞感をうまい具合に和らげている。

 

このように、『ACCA』は人物から街並みに至るまで一つ一つのデザインが垢抜けている。またそれらのトータルコーディネートも素晴らしく、全体として統一感のある「オシャレ」を生み出している。そして、この洒脱なデザインセンスがシナリオの地味さ・硬さをカバーすることで、ロジカルに入り組んだ本作を口当たりの良いエンタメ作品にしている。

 

 

まとめ&小言

結論。『ACCA13区監察課』は一言で言えば、「ミステリー(謎)」と「オシャレ」の化学反応が生み出す上質なエンタメ作品である。

 

これまで当ブログで紹介してきた作品と比較して、女性にもおすすめしやすい(もっとも、当ブログの読者に女性がいるかは疑問だが)。作風自体は変わっているが「クセの強さ」みたいなものはそれほど感じないので、比較的万人に受け容れられる作品だと思う。12話でサクッと観られるのも美点。コーヒーでも飲みながらゆったり楽しめば、作品の雰囲気との相乗効果で優雅な気分に浸れること請け合い。

 

さて、ここまでベタ褒めしてきたが、最後に良くないと感じたポイントも挙げておく。『ACCA』の一番の弱みはカタルシスが乏しい点。話はすごく良くまとまっていて無理もないし、終盤は意外な展開に驚かされもする。ただやはり、演出面も含めて全体的にやや淡泊すぎるのだ。印象に残るような演出が乏しい。まあ、このあっさりした部分も『ACCA』の魅力と言えなくもないのだが、個人的にはもう少しぐわっくる感じが欲しかった(このあたりは好みの問題もあると思うが)。

 

では今回はこんなところで。