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理屈っぽいアニメレビュー

【2020年春アニメ】覇権候補3タイトルとその理由【放送前】

 

もうじき春アニメということで、今回も恒例の覇権予想。これまで同様、40本以上ある作品の中から筆者が選ぶおすすめ3を紹介していく(覇権予想の自信も併記)。「アニメは観たい。でも本数多すぎてどれを観ればいいか分からない」という人はとりあえずこの3本を押さえておけば間違いない(多分)。

 

 

2020年春アニメ覇権候補TOP3

波よ聞いてくれ』(自信:90%)


原作:沙村広明講談社アフタヌーン」連載)
監督:南川達馬
シリーズ構成:米村正二
制作:サンライズ

あらすじ(引用元:アニメ公式HP)

「いやあ~~~~ッ、25過ぎてから男と別れるってキツいですね!」

札幌在住、スープカレー屋で働く鼓田ミナレは、酒場で知り合った地元FM局のディレクター・麻藤兼嗣に失恋トークを炸裂させていた。

翌日、いつものように仕事をしていると、店内でかけていたラジオから元カレを罵倒するミナレの声が……!麻藤はミナレの愚痴を密録し、生放送で流していたのだ。激昂してラジオ局へ乗り込むミナレ。しかし、麻藤は悪びれもせずに告げる。

「お姐さん、止めるからにはアンタが間を持たせるんだぜ?」

ミナレは全力の弁解トークをアドリブで披露する羽目に。この放送は反響を呼び、やがて麻藤からラジオパーソナリティにスカウトされる。

「お前、冠番組を持ってみる気ないか?」

タイトルは『波よ聞いてくれ』。北海道の深夜3時半、そしてミナレは覚醒するッ!

 

理由:主演新人声優の圧倒的なエネルギーと存在感

 

原作は「マンガ大賞2020」で4位を獲得した人気作。「マンガ大賞」を受賞する作品は基本的に面白い。他サイトのレビューも軒並み高評価なので、原作は間違いなくホンモノだろう。スタッフコメントとPVの内容から推測するに、「ラジオ」を舞台装置としたコミカルでハイテンポな会話劇が魅力のようだ。

 

会話劇が中心の作品をアニメにする場合は特に声優の演技およびキャスティングが重要になってくる。とりわけ、ラジオパーソナリティの主人公(鼓田ミナレ)がしゃべり倒す本作は、彼女の「声」が作品の顔であると言っても過言ではない。僕が本作を覇権と予想する理由は、この鼓田ミナレ役の新人声優に神がかり的な何かを感じたからだ。

 

百聞は一聴に如かず。とりあえずPVを観てもらいたい。

 

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これを最初に観た時、「主人公の声誰!?」と驚くと同時に「このキャラにはこの人以外ありえない」という謎の確信を抱いた。声にエネルギーと存在感があるだけでなく、演技がキャラに見事にハマっており、画面の中の「鼓田ミナレ」という人物に魂が宿っている。

 

調べてみたところ、ミナレを演じているのは杉山里穂さんという方らしい。ふむ、知らんな。他の出演作品はと調べてみてびっくり。ほぼ新人さんではないか。

 

何がびっくりって、とても新人とは思えないほど演技に貫録のようなものが感じられる。そして、このほぼ無名の(失礼なこと言ってすみません)新人声優をドンピシャの配役でキャスティングしたスタッフもすごい。「ああ、『波よ聞いてくれ』はこの杉山さんが引っ張っていく作品なんだな」と、そう感じた。あくまで僕の予想だが、この作品で杉山さんは間違いなくブレイクすると思う。

 

SHIROBAKO』の14話で音響監督の稲浪さんが「政治的なキャスティングは必ずばれます。そしてそれは作品にプラスになることはない。絶対にです」と苦言を呈していたが、本作におけるキャスティングはそれと真逆のアプローチであると言える。そして、やはり『SHIROBAKO』で描かれている通り、そういう精神性のもとに生まれる作品というのは良作が多い。

 

もちろんキャスティング以外の面でも高いクオリティが期待できる。

 

作画については日常芝居がかなり丁寧に作り込まれている。絵柄も原作のニュアンスをうまく汲み取っており、原作の魅力を活かしたアニメを作ろうというスタッフの想いが伝わってくる。

 

アニメーション制作は『ガンダム』や『ラブライブ!』シリーズを手掛けてきたジャパニメーションの老舗、サンライズバトルもの、ロボットもの、アイドルものを手掛けることが多かったサンライズにとって、本作はある種新境地の開拓ともいえる。そういう意味でも気合が入っているのかもしれない。

 

何にせよ、監督が本作を通してやりたいこと、やろうとしていることがPVからすごく伝わってきた。これが一番デカい。

 

前回の覇権予想(『pet』)は外れたと言わざるを得ないが、今回は本当に自信あり。みんな観ましょう。


 

『BNA ビー・エヌ・エー』(自信:80%)


監督:吉成曜
シリーズ構成:中島かずき
アニメーション制作:TRIGGER

あらすじ(引用元:animate Times「2020春アニメ一覧」)

21世紀、それまで歴史の闇に隠れていた獣人達がその存在を明らかにし始めていた。普通の人間だった影森みちるは、ある日突然タヌキ獣人になってしまう。人間たちから逃れるために向かった獣人特区『アニマシティ』は、十年前に獣人が獣人らしく生きるために作られた獣人のための街。そこで人間嫌いのオオカミ獣人・大神士郎と出会ったみちるは、彼と行動を共にするなかで、人間の世界にいた頃には知らなかった『獣人たち』の悩みや生活、喜びを学んでいく。なぜ、みちるは獣人になってしまったのか。その謎を追ううちに、予想もしていなかった大きな出来事に巻き込まれていくのだった。

 

理由:『エヴァ』『グレンラガン』のDNAを継ぐオリジナルアニメ

 

新世紀エヴァンゲリオン』『天元突破グレンラガン』で有名なガイナックスから分岐した制作会社TRIGGER。『キルラキル』や『SSSS.GRIDMAN』などのヒット作で有名な同社だが、本作はそのオリジナルアニメということで当然注目度も期待度も高い。ただ、内容的な部分は現段階では明らかになっていないところが多い。

 

正直この作品に関しては完全に制作陣のネームバリューで選んだ。だが、それだけで十分な判断材料と言えるくらい、『BNA』は錚々たるメンバーが制作に携わっている。

 

まず監督は、『エヴァンゲリオン』『グレンラガン』『キルラキル』でそれぞれ原画およびメカ作監・メカデザイン・セットデザインを務め、『リトルウィッチアカデミア』で初監督を経た吉成曜。経歴から分かる通り、『エヴァ』から続くガイナックスの血脈を継ぐ、日本のアニメ界を牽引してきたクリエイターの一人である。監督歴自体は浅いものの、アニメーターとしての実力は超一流で、とりわけアクション作画においては文字通りガイナックスの第一線で活躍してきた人だ。

 

次に、オリジナルものにおいて特に重要なシリーズ構成・脚本を担うのは『グレンラガン』『プロメア』『キルラキル』などのオリジナルストーリーを紡いできた中島かずき。舞台脚本・漫画原作・テレビドラマなどアニメ以外にも幅広い分野で活躍しており、脚本家としてのキャリアが厚い。オリジナルアニメの制作においてはTRRIGER創設者の一人である今石監督とタッグを組むことが多く、上に挙げた3作はいずれもこの二人が生み出した。

 

とまあ、アニメーター監督ならびに脚本家として業界トップクラスの実力を持つスーパーな二人が今回初めて監督×シリーズ構成としてタッグを組んだオリジナル作品が『BNA』というわけだ。

 

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PVから分かる通り、アニメーションとしての質がその辺の作品とは明らかに一線を画している。スーパーリアルを追求する最近の劇場アニメの傾向とは対照的に視覚的快感を重視した動画づくりが貫かれており、『エヴァ』の頃から上質かつ骨太なアクションを描いてきた吉成氏のエッセンスを感じさせる仕上がりとなっている。

 

しかも本作、3月21日からNetflixで1話から6話が先行配信されることになっている。つまり、テレビ放送開始前の段階で既に6話以上のストックがあるということだ。このことからも本作へのお金のかけ方が窺える。クオリティは保証されたようなものだ。


 

イエスタデイをうたって』(自信:50%)


原作:冬目 景(集英社ヤングジャンプコミックスGJ刊)
監督・シリーズ構成・脚本:藤原佳幸
脚本:田中 仁
制作:動画工房

あらすじ(引用元:アニメ公式HP)

大学卒業後、定職には就かずにコンビニでアルバイトをしている“リクオ”。特に目標もないまま、将来に対する焦燥感を抱えながら生きるリクオの前に、ある日、カラスを連れたミステリアスな少女―“ハル”が現れる。彼女の破天荒な振る舞いに戸惑う中、リクオはかつて憧れていた同級生“榀子”が東京に戻ってきたことを知る。

 

理由:ヒューマンドラマと繊細な映像表現の化学反応

 

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本作を推す理由は4つある。

 

まず1つは原作が本格ヒューマンドラマ・青春群像劇として15年もの間根強いファンの支持を受けていること。休載が多く刊行ペースが遅いにも関わらず長い間愛されている漫画には、「濃い」良作が多い。アニメ公式サイトで本作の藤原監督のコメントを読んだが、その内容からも物語の奥深さ、とりわけキャラクターの内面描写に魅力がある作品であることが窺い知れた。

 

2つ目は美しい背景美術。劇場アニメに見劣りしないくらい、繊細でよく作り込まれている。上述のコメントで藤原監督は原作の魅力の一つに冬目先生の画力を挙げていたが、それをアニメで再現しようという監督のこだわりと作品愛がフィルムから感じられる。夜の公園の電灯のボワッと光る感じや、桜の花びらが儚く散る様などが実に見事。リアルでありながら心象風景のような情感も湛えた空間はドラマの質に大きく寄与するだろう。

 

3つ目は実力派声優によるガチ演技。浮ついた感じや媚びた感じが一切ない、すーっと心に染み込んでくる自然で上質な芝居だ。キャスト対談を読んでみても、それぞれの声優さんがこの作品にやりがいを持っていることが伝わってくる。この手の対談やスタッフコメントというと、勿論どんな作品だろうとリップサービスはあるわけだが、それでも作品に対する演者のモチベーションや、演じていて面白いと思っているかどうかは割と分かるものだ。

 

4つ目は芝居・演出の繊細さ。これはPVを観ても明らかだし、監督自身も言及していた。キャラクター同士の緊張感や間、ぎこちなさといったものを芝居と演出で表現することで、キャラクターの複雑な内面をセリフではなく映像から視聴者に伝えようというわけだ。ある意味映像作品の醍醐味とも言えるし、個人的にこういった作品は大好物だ(『やがて君になる』もこのアプローチが光る作品だった)。ただ、口で言うのは簡単だがこの手法をTVシリーズでやるのは並大抵のことではないので、期待と同時に不安もある。なんとか最後までやり通してほしいところだ。

 

兎にも角にも、今期筆頭の本格アニメであることは疑いようもない。これまでゆるふわ日常系を作ることが多かった動画工房としては珍しくシリアス目の作品なので、これを機にこういう作品を増やしていってほしい。

 

 

他,視聴予定の作品

・『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。完』

超人気ラノベ原作アニメの第3期。『かぐや様』2期と並んでぶっちゃけ今期の覇権だが、有名過ぎて面白みに欠けるので表題の覇権候補3タイトルからは外した。筆者がわざわざ言及せずとも1期・2期と観てきた人は今回も観るだろうし。

 

『俺ガイル』は1期・2期でアニメーション制作が異なり、絵柄がかなり違うことで有名。今期は2期に引き続いてfeel.が制作を担当。監督についても、2期の及川監督(他、『ひなまつり』『ウマ娘 プリティダービー』など)が続投されている。クオリティの面での心配は不要だろう。

 

筆者は原作ファンでもあるので既に3期の内容は把握しているが、かなりシリアスだった2期よりもさらにシリアスなものになっている。あの濃い内容をどうやって映像に落とし込み1クールでまとめるのか、非常に楽しみ。

 

現在Amazon Primeなどで1期2期が配信されているので未視聴の方は是非。

 

(2020.04.09追記)

 先日、新型コロナの影響による放送延期が決定。現場がてんやわんやの中無理に作るとクオリティにどうしても影響がでるので、個人的には延期になってくれて嬉しい(もちろん会社としては資金回収のタイミングが遅れるので断腸の思いでしょう)。来期を楽しみに待っています。

 

 

・『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』

『俺ガイル』と並んで実質今期の覇権アニメ。2019年冬に放送された1期では、第3話の特殊エンディング『チカっとチカ千花っ』のキャッチーなメロディと気が遠くなるような精密作画が話題になった。

 

頭のいい男女が知略を尽くして相手に「告らせ」ようとするというありそうでなかったシナリオだが、変に奇をてらった感じはなく、純粋にラブコメとしてのクオリティが高い。キャラが魅力的かつギャグは笑えるという模範的な作品でただただ面白い。四宮会長のかわいさは異常。

 

アニメーション制作がA-1 Picturesである上に、企画の大きさ(=予算の大きさ)は1期で確認済みなので、作画でやらかすことはまずないだろう。とにかく固い一本。

 

 

・『天晴爛漫』

劇場版『SHIROBAKO』で話題のP.A.WORKSのオリジナルアニメ。もちろん期待度は高い。

 

時代設定は文明開化が起こって間もない1800年代後半。アメリカに漂流した2人の文無し日本人が母国に帰るために「アメリカ大陸横断レース」に参加し一攫千金を狙う物語。サムライが蒸気機関車に乗って荒野を駆け抜け、ごろつきどもを成敗しながらニューヨークを目指すというB級アクション映画のようなシナリオと絵面は、最近の流行りを無視した男らしさを感じる一方で、一歩間違えれば爆死しかねない危うさもある。

 

『花咲くいろは』や『SHIROBAKO』に代表されるピーエーのオリジナルアニメということで覇権候補の3本に入れるか迷ったのだが、PVやホームページを観てどこかピンとこなかったのでやめた。風呂敷を広げてはいるが、結局何が見どころのアニメかイマイチ見えてこない。とは言いつつも、やっぱりピーエーの作品なので気にはなるし切らずに最後まで観ます。予想が裏切られることに期待。

 

 

・『アルテ』

中世ヨーロッパを舞台に、画家見習いの少女が一人前を目指す物語。原作の1巻だけちらっと読んだことがあるが、展開の面白さよりも大久保圭の画力と上質な世界観を楽しむ作品であるように感じた。カテゴリーとしては『ARIA』のようなヒーリングアニメに近い気がする。

 

シリーズ構成は安心と信頼の吉田玲子大先生で、設定考証(世界観設定)は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ガルパン』などで同じく設定を担当した鈴木貴昭氏。したがって、シナリオ面で安っぽくなるようなことは恐らくない。特に吉田さんは日常的でハートウォーミングな作品の脚本に定評があるので、そういう意味でも安心感がある。声優さんも非常に豪華。知らない人がほとんどいないレベル。

 

一方、あくまでPVを観た段階の印象だが、作画が他の要素に比べて明らかに見劣りしている。ここが正直かなり不安、と言うかほぼ間違いなく作画が足を引っ張ってくると思う。

 

ただ、新型コロナの影響でただでさえ過酷な制作現場がいっそう苦境に追い込まれているという現状は、筆者含めアニメ視聴者一同よく理解しておかなければならない。

 

 

・『かくしごと

娘にマンガ家であることを隠し通そうとするマンガ家とその娘の日常をマンガ家あるあるネタを交えつつ描いたハートフルコメディ。

 

PVで主演の神谷浩史が暴れていた(褒めてる)ので視聴決定。詳しい内容はよく分からないが、独特な絵柄も含めて作品全体に一つの「空気」が感じられた。ものすごく面白くなることはない気がするが、ストレスなく最後までぼーっと観られる作品だと思う。